私がここへ来たのは、お店の外の張り紙を見てだった。
”若い人求む!!”
ただぞれだけが書かれた求人募集の紙。
その張り紙を見つけた時の私は、アルバイトをしていたケーキ屋さんが数日前に潰れてしまい、ちょうど新しいアルバイト先を探しているところだった。
「《おばあちゃんたちのまごころ詰まったまんまる食堂》か・・・お客さんもそんなに多くなさそうだし、やってみようかな」
お店があったのは市の中心から少し外れた町の中。
人口自体は少なくないが賑わっているかと聞かれればそんなこともない、というような感じのところだった。
いつもなら一度家に帰ってから面接希望の電話を掛け直すのだが、なぜかその時は
”もういっそのこと入ってしまえ!”と
心の声が聞こえてきて、まだまだ寒い1月のお昼過ぎ、心地の良い太陽の日差しに背中を押されてお店の戸を開けた。
・・・・・
中に入ると、さっきまでお客さんがいたような気配とともに誰かの話し声が聞こえてきた。
けれどもそこには誰の姿もなく、不思議に思って声のする方へ進んでいくと、その正体が明らかに…。
その人たちはカウンターの向こう側で腰掛けていて、仲良くおしゃべりしていた。
2人が私に気がつくと、
「あれ?お客さんかい?気がつかなかったよ、ごめんね」
と言って立ち上がった。
二人とも背がとても低くて、片方の人は145cmもないようだった。
立ってカウンターから顔をのぞかせるくらいだから、椅子に座っていたら入り口から見えないのも無理ないか。笑
そんなことを思いながら、私は面接に来たことを伝えた。
・・・・
「”若い人求む”って書いたけど、思っていた何倍も若い人が来ちゃったね~」
「ほんとだねぇ」
どうやら彼女たちから見た”若い人”というのは、60歳くらいの人だったらしい。
この時点ですでに面白い。私が勢いで入ってしまったのは、無意識にこれから始まる面白いことを予感していたからなのかもしれない。
このとき私の相手をしてくれたのは、菊田さん80歳と一ノ瀬さん75歳。
本当におばあちゃんだ・・・
こうして、おばあちゃんだらけの職場でのアルバイトがスタートしたのであった。
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